全ての始まり、全ての謎
ポケモン赤・緑をプレイした元・少年少女たちに問いたい。 我々の前に初めて立ちはだかった「悪の組織」、ロケット団。彼らの目的を、あなたは「金儲けのため」の一言で片付けてしまってはいないだろうか?
子供の頃は、主人公の行く先々で悪さをする「悪いやつら」としか認識していなかった。しかし、社会の理不尽さを少しだけ知った今、改めて彼らの行動を振り返ると、どうにも奇妙な点が浮かび上がってくるのだ。
タマムシシティのゲームコーナーを経営し、大企業シルフカンパニーを占拠するほどの組織力を見せたかと思えば、民家の裏庭でわざマシンを一つ盗んで喜んでいる。このチグハグさ、まるで筋が通っていない。
これは、単なるゲームの都合だったのか? それとも、我々が気づかなかった、あまりにも壮大な「真の目的」が隠されていたのか?
今回は、大人になった今だからこそできる、初代ロケット団の謎に満ちた活動を、最大限の愛情と妄想で掘り下げていく「考察という名のエンターテイメント」にお付き合いいただきたい。
そもそも「ロケット団」とは何か?
まず、この組織の名前からして不思議である。「ロケット団」。 辞書的な意味で言えば、彼らは「ポケモンを使って悪事を働き、世界征服(と金儲け)を企む秘密結社」だ。シンボルは赤い「R」のマーク。ボスはトキワシティのジムリーダーでもある、あの「いいおとこ」サカキ様である。
しかし、なぜ「ロケット」なのか? 彼らの活動範囲はカントー地方に限られており、宇宙を目指すような素振りは微塵も見せない。まさかとは思うが、サカキ様が「いつかは宇宙へ…」という壮大な夢を抱き、夜な夜な天体望遠鏡を覗いていたとでもいうのだろうか。あるいは、団員の給料が安すぎて「バイトの掛け持ちで生活は火の車(ロケット)」という意味だったのか。
ともかく、その活動内容は多岐にわたる。
こうして見ると、やはり一貫性があるようでない。彼らの行動原理を理解するには、もう少し深く踏み込む必要がありそうだ。
ロケット団の「仕事内容」一覧
ここで一度、ゲーム内での彼らの具体的な行動を冷静に整理してみよう。
場所 | 目的・行動 | 考察 |
おつきみやま | 化石の独占・転売 | 分かりやすい。金儲けの基本。 |
ハナダシティ | 民家の裏庭に穴を掘り、「あなをほる」のわざマシンを強奪 | なぜこれ? 組織的犯行にしてはショボすぎる。というか普通に売ってないのか? |
シオンタウン | ポケモンタワーを占拠し、フジ老人を人質に。カラカラの骨を狙う? | 目的が曖昧。ガラガラの骨がそんなに高値で売れるのか?霊魂ビジネス? |
タマムシシティ | ゲームコーナーを経営し、地下に巨大アジトを建設。「シルフスコープ」を所持。 | 表では合法ビジネス。アジトの規模がすごい。資金力は相当なもの。 |
シルフカンパニー | 社長を人質に取り、全社を占拠。「マスターボール」を強奪しようとする。 | 本命か? カントー経済を支配し、究極の捕獲装置を手に入れる。スケールが最大。 |
トキワシティ | ボスのサカキがジムリーダーとして主人公を待つ。敗北後、潔く解散を宣言。 | なぜジムリーダーを?なぜ解散した?謎が多すぎる。 |
見ての通り、行動のスケールに高低差がありすぎて耳がキーンとなるレベルだ。大企業を乗っ取るほどの組織が、なぜ民家の裏庭でコソコソと穴を掘っていたのか。この謎を解き明かすため、いくつかの仮説を立ててみよう。
説① 末端の質が悪すぎた説
最も現実的な説かもしれない。 サカキ様が掲げた「ポケモンは金儲けの道具」という高尚(?)な理念も、末端のしたっぱ団員にまで浸透していなかったのではないか。
つまり、上層部の壮大な計画とは別に、現場レベルでは質の低いチンピラが日々のノルマ稼ぎに奔走していただけ、という可能性だ。組織が大きくなりすぎた弊害と言える。サカキ様も中間管理職の悲哀を味わっていたのかもしれない。
説② 最強ポケモン軍団結成による世界征服説
「ポケモンはビジネス」というサカキのセリフは、「金儲け」だけを指すのではない。強力なポケモンを集め、一種の「軍事力」として組織を強化し、最終的にはカントー地方、ひいては世界を支配することが目的だったという説だ。
化石ポケモン
現代では希少な戦力。
シルフスコープ
幽霊ポケモンすら捕獲・分析するための研究開発。
マスターボール
この計画の切り札。ミュウツーのような、人の手には負えない伝説級のポケモンを確実に捕獲するための最終兵器。
この説ならば、シルフカンパニー占拠というハイリスクな行動にも説明がつく。そして、その計画をたった一人の子供に阻止されたのだから、サカキが「もう一度自分を見つめ直す」と修行の旅に出るのも納得できる。彼はただの悪党ではなく、己の野望に殉じた、ある種の求道者だったのだ。
説③ サカキの「理想のトレーナー」育成計画説
ここからが本題だ。少し視点を変えてみよう。 なぜ、サカキはあれほど回りくどいことをしたのか? なぜ、最後のジムリーダーとして主人公を待ち構えていたのか?
もしかしたら、ロケット団の活動そのものが、サカキが認めるに足る「最強のトレーナー」を探し出し、育て上げるための壮大な“マッチポンプ”だったのではないか?
彼は、ただ強いだけのトレーナーを求めていたわけではない。悪に屈しない強い心、困難を乗り越える知恵と勇気、そして何より、ポケモンへの深い愛を持つ者。そんな理想のトレーナーの登場を、彼は待ち望んでいた。
各地でロケット団が引き起こす事件は、その候補者を選別し、鍛え上げるための「試練」だったのだ。 おつきみやま、シオンタウン、タマムシシティ…主人公がそれらの試練を見事に乗り越えたことで、サカキは確信する。「こいつこそが、私が探し求めていたトレーナーだ」と。
そして、最後の試練として、自らが「悪の組織のボス」兼「最強のジムリーダー」として立ちはだかる。そこで全てをぶつけ合い、もし敗れることがあれば、それは次世代の誕生を意味する。だからこそ、彼は敗北を潔く受け入れ、ロケット団を解散し、自らは身を引いた。 …なんという「いいおとこ」。彼の行動は全て、未来への投資だったのである。
真の敵は「ミュウツー」だった説
さらに妄想を加速させてみよう。 ロケット団が本当に戦おうとしていた相手は、主人公でもリーグでもなく、「ミュウツー」だったとしたら?
サカキは、あるルートからミュウツーの誕生とその恐るべき力を知る。このまま野に放てば、カントー、いや世界が破滅しかねない。しかし、公的機関に訴えても、誰もその存在を信じないだろう。ならば――。
「我々が、非合法な手段を用いてでも、この危機を食い止める」
これが新生ロケット団の、隠された目的だったのだ。
シルフスコープ強奪
あれは幽霊を見るための装置などではない。その正体は、ミュウツーが放つ強力なサイコエネルギーを観測・中和するための「精神感応波(サイコ・ウェーブ)可視化装置」のプロトタイプだった。ポケモンタワーのゴーストに効果があったのは、偶然の産物か、あるいは霊的なエネルギーとサイコパワーに共通点があったからに過ぎない。
マスターボール開発の強要
ミュウツーを捕獲・制御できる唯一の希望がマスターボールであると突き止めたサカキは、シルフカンパニーを強引に協力させ、その完成を急がせた。シルフの社長が「協力しろ!」と脅されていたのは、そういう背景があったのだ。
つまり、ロケット団は「悪の組織」という仮面を被った、過激派の自警団だったのだ。彼らが集めていたポケモンや資金は、すべてが「対ミュウツー戦」のための軍資金であり、戦力だった。 世界を救うという大義のため、彼らはあえて汚名を着て戦っていたのである。泣ける。
開発者の掌の上で踊っていた説
さて、散々妄想を繰り広げたが、ここで一度冷静になろう。我々はゲームプレイヤーであり、これはゲームクリエイターが作った物語だ。
結局のところ、ロケット団は「RPGにおける悪役」という役割を完璧にこなした、最高の舞台装置だった説。
当時の子供向けRPGにおいて、「世界征服を企む悪の組織」は、冒険の動機付けとして最高のスパイスだった。
序盤の小悪党
「あなをほる」強奪のような小さな事件は、プレイヤーに「こいつらは悪いやつらだ」と印象付けるためのジャブ。
中盤の障害
各地で悪事を働くことで、ストーリーに起伏と目的を与える。プレイヤーはロケット団を追いかける形でカントー地方を巡ることになる。
終盤のクライマックス
シルフカンパニー占拠という大事件で物語を盛り上げ、そしてラスボスの一人であるサカキが「最後のジムリーダー」として登場する。このシナリオ構成の見事さよ。
我々が「ロケット団の行動は一貫性がないぞ?」と頭を捻っていることすら、おそらく開発者たちの想定内。むしろ、その「隙」や「謎」があるからこそ、今でもこうして考察を楽しみ、物語の世界に浸ることができる。
結局、我々は皆、ゲームフリークという名の神の掌の上で、心地よく踊らされていたに過ぎないのかもしれない。
【結論】謎こそがロケット団最大のアイデンティティ
ロケット団の目的。それは金儲けでもあり、世界征服でもあり、あるいはサカキ個人の美学の果てだったのかもしれない。 深読みすれば、人類を救うための悲しき聖戦だったという解釈すら可能だ。
しかし、真実はもっとシンプルで、同時に奥深い。
ロケット団の目的とは、「我々プレイヤーの冒険を最高にエキサイティングなものにすること」だったのではないだろうか。
彼らの行動に完璧な一貫性がないからこそ、我々は想像を膨らませる。そのチグハグさ、ショボさと大胆さのアンバランスさこそが、ロケット団という組織に人間味と忘れがたい魅力を与えている。
ただの記号的な悪役ではない、どこか憎めない、謎に満ちた存在。 それこそが、初代ロケット団最大の功績であり、我々が今も彼らを愛してやまない理由なのである。