世界征服の野望を持った男——だが中ボス
ドラクエシリーズには、実に多彩な悪役たちが登場してきた。
世界を闇に包むゾーマ、神すら倒そうとするデスピサロ、裏切りと野心のデスタムーア。
そしてそんな錚々たる面々の片隅に、タイムマスターという妙に惜しい男がいる。
「時の流れを支配する魔法使い」という、どう考えてもドラクエ史上でも屈指の大それた肩書きを持ちながら、
彼はたった一つの街の時間を止めただけで退場していく。
だが、もし彼にもう少しの運と脚本の加護があれば、ラスボスになりえたのではないか?
そんな妄想を交えて、今回はタイムマスターの可能性を徹底的に考察していこうと思う。
「時の支配者」設定がバグってる
冷静に考えてほしい。
この世界には「炎を操る魔王」や「死者を蘇らせる神」など様々な強敵がいるが、「時間そのものを支配する」なんて反則級の能力はタイムマスター以外にほとんど存在しない。
彼の能力が本気で世界全体に及べば、歴代の大魔王ですら苦戦必至だろう。
ドラクエというターン制バトルRPGの根幹を破壊するほどの可能性を秘めた力。
もはやラスボスどころか、シリーズ崩壊危機レベルの能力と言ってもいい。
だが、現実のタイムマスターがやったのは「リートルード地方限定・1日ループ」だけである。
想像以上にスケールダウンしすぎてプレイヤーは困惑しただろう。
なぜ彼は野望を小さくしたのか?
ここで一つ大胆な仮説を立ててみたい。
「実はタイムマスターは“実験段階”だったのでは?」
彼は本来、全世界の時間を支配する野望を抱えていた。だが、いきなり広域でやるにはリスクが大きい。
だからリートルードという小規模な町で時間ループのテストをしていたのではないか。
つまり、あの時のタイムマスターはまだ「魔王候補生」に過ぎなかった可能性がある。
試作品ロボットが暴走したように、彼は魔王昇格試験の途中で勇者たちに邪魔された、そんな構図が浮かんでくる。
タイムマスターはシリーズでも異色の“ネタ死”
そして彼の名を最も有名にしているのは、やはり例の死亡セリフである。
「時の砂時計がある限り……しまった!余計なことを言うんじゃなかったぁ!」
まさに悪役の悪手あるあるTOP5にランクインする自爆セリフだ。
ドラクエの悪役たちは、ゾーマのように静かに去る者もいれば、デスタムーアのように吠えながら消える者もいる。
だがタイムマスターは堂々の「自爆情報開示型」。
こんなにも情けなく、そしてプレイヤーに愛される中ボスは他にいない。
もしタイムマスターがラスボスだった世界線
もしもタイムマスターが本気を出せる脚本に生まれていたなら、
ドラクエ7はこうもなっていたかもしれない。
こうして妄想すると、ドラクエ史上最も異色のストーリーが誕生する。
時間改変・ループ・パラドックス——RPGと相性抜群の題材だっただけに惜しい。
「惜しい天才」こそタイムマスターの魅力
結局、タイムマスターとは何だったのか?
それは、ドラクエスタッフが中盤ボスにしては壮大すぎる設定を与えてしまったキャラである。
そのアンバランスさこそ、タイムマスターが今なお語り継がれる理由だろう。
彼は中ボスの枠では収まりきらない「惜しい男」として、ドラクエ界のネタ界隈に永遠に名を残しているのだ。