はじめに
常に冷たい雨が降りしきる「いかりの湖」。その湖面を切り裂き、全てのトレーナーの脳裏に焼き付いて離れない、燃えるような“赤”の記憶がある。
そのポケモンの名は、ギャラドス。しかし、我々が知る青い龍ではない。「赤いギャラドス」。ポケモン金銀という物語の象徴であり、あまりにも衝撃的な存在だ。
ゲーム内では、四天王ワタルによってその原因が語られる。「ロケット団の怪しい電波のせいだ」と。我々はこの説明を受け入れ、悪の組織への怒りを新たにした。しかし、その説明だけでは決して解けない、最大の謎が残されている。
「では、なぜ、ごく稀に釣りなどで遭遇する、ロケット団とは無関係な“天然モノ”の色違いギャラドスもまた、“赤い”のか?」
この根源的な矛盾。この長年の論争に、我々が本日、終止符を打つ。
事件の全貌と公式見解の限界
まず、事件の舞台となったチョウジタウンと、そこに潜むロケット団の動向を再検証しよう。
チョウジタウンの、何の変哲もないお土産屋。その地下には、なぜか巨大な秘密基地。セキュリティ意識の欠如を疑わざるを得ないが、彼らはそこで無数のマルマインたちを動力源に、非道な計画を実行していた。それが、いかりの湖に向けた「怪しい進化促進電波」の発信である。
この事件に、いち早く気づき、単身で乗り込んできたのが四天王ワタルだ。彼の行動は、この事件が単なるポケモン虐待ではなく、ジョウト地方の生態系そのものを揺るがす大事件だと認識していたことを示している。
しかし、「ロケット団の電波で赤くなった」というこの見解では、自然界に存在する赤い個体の謎を説明できない。つまり、我々が立てるべき問いはこうだ。 「ギャラドスという種は、なぜ“赤く”なるポテンシャルを、そもそもその遺伝子に秘めているのか?」
これが答えだ!ギャラドスに眠る「赤の遺伝子」2大仮説
ギャラドスの赤さは、後付けの塗装などではない。それは、その種が太古から受け継いできた「隠された本質」の発露なのである。
説① 先祖返り説
はるか昔、全てのギャラドスは、血のように赤い「古代種」だった。彼らは現代の個体よりも遥かに凶暴で、その魂に刻まれた太古の荒ぶる血によって、その身を赤く染めていた。しかし、長い年月を経て、その力を自ら封印し、穏やかな「青」の姿へと変わっていった。
ごく稀に、遺伝子の気まぐれで、この古代種の血が目覚めてしまう個体が生まれる。それが「自然発生の赤いギャラドス」だ。いわば、クラスに一人はいる「俺、前世の記憶あるんだよね」とか言い出すヤツと同じなのである。
説② リミッター解除説
全てのギャラドスは、その体内に、世界を滅ぼしかねないほどの「怒り」のエネルギーを秘めている。普段の青い体色は、その怒りを抑える「冷却装置」兼「安全装置(リミッター)」として機能している。
「色違い」とは、このリミッターが生まれつき壊れているか、極めてピーキーな調整が施されている突然変異個体を指す。常にフルパワーの「パフォーマンスモード」で、怒りのエネルギーを垂れ流している状態だ。つまり、燃費が最悪な、じゃじゃ馬マシンなのである。
ロケット団の真の罪は“禁断のスイッチ”を押したこと
これらの説を踏まえると、ロケット団がチョウジタウンでやっていたことの、本当のヤバさが見えてくる。
彼らの目的は、単にコイキングを進化させることではなかった。彼らは、ギャラドスの遺伝子に隠された、この「古代種の血を目覚めさせる」あるいは「怒りのリミッターを破壊する」という『激ヤバスイッチ』の場所を特定し、怪しい電波で無理やりポチッと押したのだ!
彼らの技術力と探求心だけは、方向性は最悪だが、ポケモン学会で異端の論文を発表できるレベルである。
いかりの湖の赤いギャラドス。彼は、自然発生した「遺伝子の奇跡(レアキャラ)」などではない。彼は、ロケット団によって「人工的に作られた、悲劇の色違い」であり、いわくつきの「事故物件」なのである。
我々主人公とワタルがロケット団のアジトを壊滅させた行為は、一匹のギャラドスを救っただけでなく、この迷惑千万な技術が世界に広まるのを防いだ、非常に大きな意味を持つ行動だったのだ。
自然の奇跡として生まれた赤いギャラドスと、人間のエゴによって生み出された赤いギャラドス。同じ色でも、その赤の“意味”は全く違う。その違いがわかるのが、一流のトレーナーというものだ。
次に赤いギャラドスと対峙する時、その赤が「奇跡」の色なのか、それとも「悲劇」の色なのか、少しだけ思いを馳せてみてほしい。見慣れたポケモンの色が、全く違って見えてくるはずだから。