はじめに

全ての物語は、一つの選択から始まる。 そして、ポケモン金銀における最初の、そして最も重要な選択。それは、ワカバタウンのウツギポケモン研究所、あの機械に収められた3つのモンスターボールの前で、我々が下した決断である。
多くのトレーナーは、これを単なるタイプの好みや、見た目の愛らしさで選んだことだろう。 しかし、今にして思えば、あの選択は、我々がこれから歩むジョウト地方での冒険の「難易度」、いや、それ以上に、我々が体験する「物語の質」そのものを決定づける、あまりにも重大な“人生の選択”だったのである。
今回は、ジョウト御三家という名の、3つの異なるシナリオを徹底的に解剖する。
チコリータ

まず、我々はこの可愛らしい若葉のポケモンが示す、過酷な現実と向き合わなければならない。 結論から言えば、チコリータを選ぶことは、自ら「ハードモード」を選択するに等しい。
序盤に立ちはだかる、絶望的な相性の壁
ジョウト地方は、くさタイプのポケモンに、あまりにも優しくない。
まさに、序盤は茨の道。チコリータ(あるいはベイリーフ)は、ただ耐え忍ぶことを強いられる。最終進化系のメガニウムも、タイプはくさ単体のままで、ステータスは耐久寄り。派手なアタッカーにはなれない。
では、なぜこの道を選ぶ者がいるのか。 それは、この道こそが、最もトレーナーを成長させるからだ。 チコリータを選んだトレーナーは、相棒一体に頼るゴリ押しプレイを許されない。序盤から、キキョウシティ周辺でイシツブテを捕まえ、あるいはコガネシティへの道でメリープを探し、弱点を補う「チーム」を構築する必要に迫られる。
チコリータを選ぶとは、「私は安易な道を選ばない。戦略と、仲間との絆で、この逆境を乗り越えてみせる」という、熟練トレーナーとしての決意表明なのだ。苦難を共に乗り越えたメガニウムとの絆は、他のどのポケモンよりも、深く、そして強固なものになるだろう。
ヒノアラシ

次に、背中の炎が印象的な、ヒノアラシ。 彼と共に歩む道は、チコリータとは対照的な、王道にして正統派の「英雄の物語」である。
安定した攻略ルートを約束する、有利な相性
ヒノアラシのほのおタイプは、ジョウトのジムリーダーに対して、非常に安定した戦いを約束してくれる。
明確な苦手タイプはいるものの、序盤で苦労することはほとんどない。最終進化系のバクフーンは、高い「すばやさ」と「とくこう」を誇る、高速特殊アタッカー。その姿は、まさに旅のエースと呼ぶにふさわしい。
ヒノアラシを選ぶとは、「力と速さで、悪を打ち砕く」という、最も分かりやすく、最もカタルシスに満ちた物語を選択することだ。臆病だったヒノアラシが、頼れるバクフーンへと成長していく姿は、主人公の成長と完璧に重なり合う。これは、多くの人が思い描く、王道の冒険活劇なのである。
ワニノコ

最後に、陽気で大きな口を持つ、ワニノコ。 彼が示す道は、戦略や物語性とは少し違う。それは、ただひたすらに「楽しさ」と「痛快さ」を追求する道だ。
序盤から完成された、圧倒的な物理性能
ワニノコは、早い段階で「かみつく」といった、優秀な物理技を習得する。進化系のオーダイルは、「こうげき」の種族値が非常に高く、その巨大な顎で、目の前の敵を次々となぎ倒していく。 弱点が少なく、物理アタッカーとして一貫して高い性能を誇るため、ストーリー攻略で困る場面はほとんどない。
ワニノコを選ぶとは、「細かいことはいい。目の前の壁を、力で噛み砕いて進む」という、最もシンプルで、最も爽快な冒険を選択することだ。難しい戦略は必要ない。陽気な相棒と共に、笑い、踊り、そして全てを破壊する。これぞ、冒険の原初的な楽しさに満ちた、最高の旅路と言えるだろう。
【結論】最初の選択こそが、君の“物語”だった
チコリータ、ヒノアラシ、ワニノコ。 ジョウト御三家選びの天才的な点は、その絶妙な「アンバランスさ」にある。どのポケモンを選ぶかによって、プレイヤーが体験するゲームの難易度、そして物語のテイストそのものが、劇的に変化するよう設計されていたのだ。
あなたがウツギ博士の研究所であの日、手にしたモンスターボール。 その中に入っていたのは、単なる一匹のポケモンではない。 あなたがこれから体験する、かけがえのない“物語”そのものだったのである。