【ポケモンDP】なぜDPの対戦は“革命”だったのか？～技ごとの「物理/特殊」分類が、ポケモンバトルにもたらした深すぎる戦略性～

はじめに

ポケモンダイヤモンド・パール。シンオウ地方を舞台とした我々の冒険は、壮大な神話、魅力的なポケモン、そしてチャンピオン・シロナの圧倒的な強さとして、記憶に刻まれている。

しかし、この世代がポケモンバトルの歴史において、真に「革命」と呼ぶべき大転換を成し遂げた世代であることを、我々は決して忘れてはならない。それは、たった一つの、しかしあまりにも根源的なルールの変更によってもたらされた。 技ごとの「物理」「特殊」分類の導入である。

今回は、この仕様変更がいかにして旧世代の常識を破壊し、数多のポケモンを救い、そしてポケモンバトルを無限の深みを持つ戦略ゲームへと昇華させたのか、その歴史的意義に迫る。

“旧世界”の悲劇～タイプに縛られた、不遇の時代（第一～第三世代）～

DP以前の世界を、我々は思い出さなければならない。そこは、一見すると合理的、しかしその実、多くの矛盾と悲劇に満ちた世界だった。そこでは、技が「物理攻撃」か「特殊攻撃」かは、その技のタイプによって、問答無用で決定されていた。

物理攻撃タイプ: ノーマル、かくとう、どく、じめん、ひこう、むし、いわ、ゴースト、はがね
特殊攻撃タイプ: ほのお、みず、くさ、でんき、こおり、エスパー、ドラゴン、あく

この「タイプによる一括分類」が、どれほど多くの悲劇を生み出してきたことか。

ゲンガー
高い「とくこう」を持つゴーストポケモンの王。しかし、彼が得意とするゴーストタイプの技は、旧ルールでは全て「物理攻撃」に分類されていた。彼の主力技「シャドーボール」は、その貧弱な「こうげき」ステータスから計算される、威力のない怨念の囁きに過ぎなかったのだ。

ギャラドス
圧倒的な「こうげき」を誇る、物理アタッカーの化身。しかし、彼がタイプ一致で放つはずの、みずタイプの技（「ハイドロポンプ」など）は、全て「特殊攻撃」。その恵まれた肉体から繰り出されるはずの激流は、彼の低い「とくこう」によって、ただの優しい小川へと成り下がっていた。

カイリキーなど
彼らは、炎や氷、雷の力をその拳に宿すことができる。しかし、「ほのおのパンチ」「れいとうパンチ」「かみなりパンチ」は、なぜか全て「特殊攻撃」に分類されていた。鍛え上げられた筋肉は、その威力を発揮する機会すら与えられなかったのである。

このように、多くのポケモンが、自らの能力と技の性質が一致しないという、理不尽な“業”を背負わされていたのだ。

ダイヤモンド・パールがもたらした“論理”

そして、第四世代、ダイヤモンド・パールで、その永きにわたる悲劇の歴史に、ついに終止符が打たれる。 技の分類が、タイプではなく、一つ一つの技の性質によって個別に決定されるようになったのだ。

物理技【物】: パンチやキック、かみつく、斬りつけるなど、直接相手に接触する技。
特殊技【特】: ほのお、みず、電気など、エネルギーや遠距離攻撃が主体の技。

たったこれだけの、しかしあまりにも偉大な変更。それは、ポケモンバトルに「論理」と「納得」という光をもたらした革命だった。パンチは、たとえ炎をまとっていても「物理技」。怪しい光線は、たとえ悪のエネルギーでも「特殊技」。当たり前のようで、誰もが待ち望んでいた、真の時代の幕開けである。

解放されし者、そして新たな戦略

この革命によって、世界の勢力図は完全に塗り替えられた。

解放されし英雄たち

ゲンガー
彼の「シャドーボール」は、ついに本来の力を取り戻し、その高い「とくこう」から放たれる真の必殺技となった。ゴーストの王が、名実ともに戴冠した瞬間である。

ギャラドス
「たきのぼり」や「アクアテール」は、待望の物理みず技。彼の圧倒的な「こうげき」が、ようやくタイプ一致の主力技として機能するようになった。

マニューラなど
「つじぎり」（あく）や「れいとうパンチ」（こおり）といった技が物理化したことで、高い攻撃力と素早さを持つ、新たな物理アタッカーたちが台頭した。

深化する戦略

これにより、ポケモンの育成とパーティ構築は、飛躍的に奥深くなった。相手のパーティを見て、「物理受け（ぼうぎょが高いポケモン）」と「特殊受け（とくぼうが高いポケモン）」をどう使い分けるか。あるいは、相手の意表を突く「両刀使い（こうげき・とくこう両方を活用するポケモン）」をどう育成するか。単なるタイプの相性だけでなく、相手の防御ステータスを見極め、物理・特殊どちらで攻めるのが有効かを瞬時に判断する、高度な駆け引きが生まれたのだ。